21年目の失恋

 先日、妹が偶然に妹宅近所の自動車部品店で小中学生時代の同級生で元同じバイト仲間の♂に出会ったと聞いた。今度、元バイト仲間と集まって飲み会をすると聞いたので、妹の同級生♂のお姉ちゃんTさんの消息を聞いてほしいと頼んだ。
 Tさんは自分と同級生であり小学校3年生から中学3年生まで中学1年の1年間を除いて、ずっと一緒のクラスであり、同じ水泳部で仲も良かった。また親同士も顔見知りの仲でもあった。
 中学1年の頃、世話好きな女子が「Tさんが自分のこと好きらしいよ」と教えてくれた。その時の自分は何とも思っていなかったが、その後も世話好きな女子が「バレンタインにチョコ渡したいみたいだよ。」「でも家でダメだと怒られたみたい」とかいろいろと情報を吹き込んで来た。Tさんも毎朝、学校の土間でこっちを眺めているのを感じるようになった。
 自分も意識するようになり、無意識に部活中の彼女を眺めていたりしていたこともあったみたいだ。次第にTさんと会話するのも恥ずかしくなって、いつしか好きになっていた。それが初恋であった。やがて中学生のクセにこの人と絶対結婚したいとまで思うようになっていた。
 中2で再び同じクラスになり、一緒に生徒会をやったり、中3ではクラスの室長・副室長をやって一緒にクラスをまとめ上げ、とても楽しかった。
 しかし卒業、高校進学で進路はバラバラに。学校の方向も正反対で会うことが無くなってしまった。それでもTさんの事が気になり、会えないかなぁと思いつつ家の近所を通ると家の前にお父さんが見えてドキドキしたこともあった。全く会う機会はなかったが、時々親同士がスーパーで会うことがあり、時々近況は耳に入ってきた。
 中学卒業から4年後、成人式は同じ小学校出身者で集まるので、Tさんとも久々の再会になる。成人式前から「当時の思いを告ってしまおう」と思っていたが、当日は久々の再会の同窓会ムードでそんなことを言うことは出来なかった。ただ久々に直接会って会話できただけで嬉しかった。その時に同じ方向の地下鉄に乗って学校へ通っていると聞いたので、もしかしたら会うこともあるかも知れないとは思ったが、実際会うことは無かった。
 成人式から数ヶ月後のGW明けの日。寝坊していつもより遅い地下鉄に飛び乗ったところ、何とTさんと一緒だった。だいたいそれぐらいの時間の地下鉄で通っているとのことだった。それからの自分は大きく生活が乱れた。今まで遅刻を1回もした事なかったのだが1コマ目は遅刻の常習犯となった。さらに悪人は非常勤講師に出席簿の遅刻の付け方をウソを教え、正規の出席にしていたりもした。
 いつも遅刻の時間に地下鉄に乗るようになっていたが、それでもTさんと会えることはそれほど多くはなかった。月に一度も会えなかったが、少しでも会える可能性を求めていつも遅刻していた。地下鉄で出会えたときに、バイト先が自分も成人式前の年末年始に短期でバイトしていたところのすぐ隣の書店のパソコンコーナーだと聞き、それから数回、雑誌を買いに行きつつ会いに行っていた。
 その年の夏休みに卒研の関係で秋田へ行ってきたので、今度あったときにはお土産を渡したいなと思って、いつも持ち歩いていたが、バイト先も辞めたのか姿を見せなかったし、朝の地下鉄でも出会うことはなかった。結局、卒業までお土産は渡せず終いに終わってしまった。またもし帰りに会えたら、道中の美味しいケーキ屋さんに寄ってゆっくりとお話しがしたいと思い、いつでも行けるよう別の財布に別枠で¥10,000持ち歩いて用意もしていたのだが、使うことはなかった。
 今とは違い、携帯電話やEメールも無く、若い高校生たちがポケベルの数字の羅列で通信し始めていたころなので、自宅以外の連絡方法は無かったので、連絡先を聞いておくと言う手もなかったのでしょうがなかった。
 卒業後、妹からTさんの弟伝てに、教職に就いたと耳にした。それから就職して10年経ち、ふとどうしているだろうかと気になり調べてみたところ、どうやらまだ姓を変えずに仕事しているようだと言うことまで分かったが、それ以上の情報は何も無く、また時が過ぎていった。
 それで今回、Tさんがどうしているだろうか気になり頼んだのであった。結果は、結婚されて遠くへ引っ越されたとのこと。でも今は新幹線通勤で仕事を続けているらしい。とのことだった。
 今となっては当時の彼女の本意も分からないし、自分が世話好き女子に遊ばれていたのかも知れない。片思いだったのか、両思いだったのかも分からない。しかし、自分が好きになっていたのは事実だ。このことは生涯、自分の思い出として心の奥底にしまっておき、21年目にして想いを絶つことにした。